家庭医療専門医のTGです。2022年2月中旬から2カ月の育児休業をいただきました。
折しも、2022年4月から、男性の育休取得を進めるための新制度が始まりました。企業には社員への働き掛けが義務付けられ、子が生まれた直後に取れる「産後パパ育休(男性版産休)」も10月に創設されます。
男性育休、2022年4月からの法改正のポイント 企業に必要な準備も解説
https://smbiz.asahi.com/article/14370950
社会のそうした後押しもあり、一般社会では、男性の育休もそこまで珍しいことではないかもしれませんが、男性医師に限っては私の周囲を見渡す限り、まだまだ育休取得はハードルが高い印象でした。
今回、職場のボス、同僚の皆さんのサポートのおかげで幸運にも育休をいただくことができました。日常業務における働きやすさはもちろん、急な人手不足を見越してオペレーションを組んでいる組織に所属することの有り難さを実感しました。
今後、育休を取ろうかなと考えている方の参考になればと、私の体験をシェアいたします。同じように、育児休業を取得する人が増えることを願っています。
注①:長い育児において「たった2カ月関わっただけでしょ」というお叱りは甘んじてお受けします…。
注②:本来は「妻」と表現すべきですが「奥様」の方がしっくりくるため文中ではそのまま記載しました。
単身赴任開始後 すぐにわかった妻の妊娠
長男(7歳)と奥様を沖縄の義理の実家に置いて、単身赴任で2021年4月から当科に加わりました。飯塚に連れてくることを何度も検討しましたが、奥様の両親、義兄家族も同居する大家族での暮らしの方が長男にとってはよいだろうと単身赴任を選びました(実際、父親がいなくても本人は楽しそうでした…)。
もろもろの事情があり、第2子を授かるのはちょっと難しそうだな、と考えていたため、赴任当時は「もし子どもが産まれたら……」とは全く考えていませんでした。
紆余曲折を経て、2021年7月頃に奥様の妊娠がわかりました。とはいえ、ある程度、週数が経つまでは全く安心できませんでした。まず12週、その次は20週とドキドキしながら過ごしていました。この時期、私は飯塚で単身赴任だったため、沖縄で長男(7歳)を育てながらの奥様には多大な負担をかけました。
10月中旬の時点で、無事に妊娠20週までたどり着きました。この段階になり、ようやく第2子出産が現実味を帯びてきました。
育児休業の申請
ただ、この時点では、育児休業を申請するかどうか迷っていました。というのも、
「2年間限定の研修に来ている身で、2カ月も休みをもらっていいのか?」
との気後れがあったのと、そもそも育児休業制度がよくわかっていなかったためです。
育児休業とは?全員もらえるの?
基本的に正社員であれば育児休業を取得できますが、所属する組織によって異なるため人事課に確認することが重要です。以下が育児休業取得の要件です(2022年4月からは①の要件は不要となったようです)。
ちなみに、私は勤務開始して1年未満でしたが、前職から継続して雇用保険に入っていることと、最低2年間働く予定であったために取得ができました。
こちらの動画が制度の仕組みや育休取得の流れなど網羅的に説明してくれていて分かりやすかったです。
育休取得をボスにおそるおそる相談してみると…
まずビッグボスに育児休業を取得できるかどうか、相談したところ、以下の返事をいただきました。
明確な決まりはないので、どのくらいの期間を休みたいのか、
希望を教えてもらえますか?
実際、前例がなかったため、どれくらいの期間をもらっていいものか、わかりませんでした。
「最低1カ月くらいは…」
「でも2週間くらいが現実的かな」
と悩みました。
ただ、おそらく生涯で最後のチャンスになるであると考え、意を決して希望する期間を「2カ月」と伝えました。
振り返れば、長男(7歳)が産まれた時にはちょうど初期研修中で、育児休業を取得する案すらでてこず、産後は奥様に完全丸投げ状態でした。文句を言わずにワンオペで乗りきってくれた奥様には(もともとですが)一生、頭が上がりません(>_<) 。
最終的に、ビッグボスからは(満額回答の)2カ月の育児休業をいただくことができました!
想像しかできませんが、組織を運営する立場から考えると、1人の医師が2カ月抜ける穴埋めなど、調整は簡単ではなかったはずです。感謝するとともに、自らが組織を運営する立場になったときに、メンバーが滞りなく育児休業を取れるような組織作りをしなければならないと感じました。
育児休業が決まってから
育休取得の手続き
こちらは人事課の担当者と何度かやり取りしました。
提出書類など所属長のサインが必要だったり、出産後にしか出来ない手続きもあるため、注意が必要です。
必ず該当する部署に確認しましょう。
とてもありがたい育児休業給付金
「何ヶ月も休んだら、給料もらえなくて生活できないのでは?」
と心配する方もいるかもしれません。
しかし、育休中は育児休業給付金として、雇用保険から普段の賃金の67%が支払われます。TGも2カ月の育児休業が終わった後、出産から3カ月近く経ってからですが、2カ月分振り込まれました。とても有り難かったです(゜´Д`゜)。
もともとは給付率は50%だったようですが、2014年に67%に引き上げ、2017年には給付期間(保育園に入園できない場合)を1歳6カ月までから2歳までに延長されています。
育休取得者が年々、増えてきているのは喜ばしいですが、一方で今後、育休取得者が増えることで「財源をどうするか問題」もあるようです。
https://www.asahi.com/articles/ASQ3Y32MWQ3XULFA00X.html
業務の引き継ぎ
出産予定日は当初、3月9日でした。
年明けから、育休による2カ月の不在期間に備え、緩和ケア外来を代わってくれる医師への引き継ぎを行っていきました。
ところが、妻の骨盤位が治らず、予定帝王切開となり出産予定日は急遽、3週間以上、早まりました。予定よりかなり早く沖縄に帰らなくては行けなくなり、バタバタと最低限の引き継ぎを行って育児休業に入りました。
外来を代わっていただいたM先生はじめ、指導医の先生方にはご負担をおかけいたしました(o_ _)o
出産
出産当日朝に入院、その日の午後に帝王切開の予定でした。
コロナ禍で、入院中も面会は当然(?)禁止とあらかじめ聞いていました。ただ、帝王切開の様子はオンラインで中継してもらえるなど、家族への配慮も感じました。クリニックの方々には大変よくしていただきました。
帝王切開の様子を奥様の実家で義母と一緒に観ながら、喜びを分かち合いました。
おかげさまで、母子ともに健康の状態で出産を終えることができました。
深夜にまさかの転院搬送、NICUへ
出産の喜びも冷めない同日深夜1時、入院中の奥様からの電話で目覚めました。
どうしよう。赤ちゃんの呼吸状態がよくなくて、これからNICUがある病院に運んだ方がいいって先生が言っている(涙)。先生と話してもらっていい?
電話口の奥様は涙声で取り乱した様子でした。悪いことが起こっているとすぐにわかりました。
当直の先生に換わってもらって話を聞きました。
出産直後は問題なかったんですが、その後、呼吸が苦しそうになっていて酸素を投与しています。一過性の問題とは思いますが、なかなか改善しないので、これからNICUのある〇〇病院に搬送します。お父さん、病院に向かってもらっていいですか?
まさかの展開でした。長男を義父母に託して、搬送先の病院まで車で20分。到着後、病院玄関で呼ばれるまで待機していました(採血結果がでるまでの時間だったようです)。1時間ほどして、NICUの看護師さんがやってきて、病棟に案内してくれました。担当してくれた当直の小児科医から説明をうけました。
お医者さんですか?専門はどちらですか?
え?……総合診療系で、いまは緩和ケアを勉強しています。
そうですか。では血液検査結果もわかると思いますので説明しますと……
その後、30分近く時間をかけて詳細に状況を説明していただきました。
幸い、現時点で感染症など重篤な病態を疑わず、抗菌薬は使わずに経過をみようと考えていることなど思考の流れも正直に教えてくれました。この時点では新生児一過性多呼吸が最も考えられるため、数日で良くなるという見通しを共有されました。
新生児一過性多呼吸とは?
余談となりますが、TGが医学生の時に小児科実習で担当させてもらった新生児がこの病気だったため、多少の知識がありました。なんとなく「そこまで重篤にはならないだろう」という印象を持ちました。
この病気は帝王切開の場合に稀ならずみられる状態です。一般的には酸素投与のみで数日で良くなるという理解でした。詳しい説明はこちらです。
新生児一過性多呼吸(TTN:Transient tachypnea of the newborn)
概念:胎児の肺胞を満たしている肺液(肺水)の吸収遅延により引き起こされる、多呼吸を主な症状とする呼吸障害です。原因:肺液(肺水)は、産道通過時の胸郭圧迫による排泄、呼吸開始後の肺胞周囲間質への移動とリンパ管、毛細血管からの吸収によって肺胞からなくなります。この肺液(肺水)の排泄、吸収の遅延がおこると呼吸窮迫症状を呈します。 骨盤位分娩、胎児新生児仮死、陣痛発来前に行なわれた帝王切開、低タンパク血症、多血などが誘因となります。
症状:出生直後から多呼吸を認めることが多く、呼吸数は1分間に80~120回程になります。呼吸障害は多くが24時間以内に良くなりますが、数日持続する場合もあります。通常は利尿がつけば呼吸状態が安定化します。
治療:通常は保育器に収容して酸素投与を行うことで症状が改善しますが、高濃度の酸素投与が必要な場合は、nasal CPAP(経鼻的持続陽圧呼吸療法)を行ったり、人工呼吸器管理を行います。
浜松医科大学 地域周産期医療学講座 (寄附講座)ホームページより
https://www.hama-med.ac.jp/education/fac-med/dept/reg-neonatal-perinatal-med/disease/ttn.html
すぐには良くならず不安な日々を過ごす
しかし、予想に反して、しばらく赤ちゃんの呼吸状態は横ばいでした。本来は数日で良くなるはずであったため、主治医からも「普通は2,3日で良くなるのに少し悪くなっているのが気がかりですね」と言われて落ち着かない日々でした。
そんななか、赤ちゃんとはZoomを使った面会をセッティングしていただきました。長男と一緒に病院の一室でモニター越しに見た赤ちゃんは、酸素マスクを押し当てられて、顔はむくむくでした。
赤ちゃんの容態が改善しないことに加え、出産したクリニックに入院中の奥様は帝王切開後の痛みと貧血でなかなか調子が上がらず、そちらも心配でした。電話はできるものの、こちらも面会はできず……。
そもそも、当初の帝王切開スケジュールから3週間、前倒しで出産。さらに出産当日に救急車で転院搬送となるなど、予想外のイベントが立て続けに起こったこの数日はとても不安でした。
わが家へようこそ!出産10日後に無事に退院
ただ、その後は順調に回復して1週間で酸素投与は不要になりました。最終的に10日間で赤ちゃんは退院できました。
この間のTGは、奥様が搾乳して凍らせた母乳をクリニックからNICUへ運搬する「運び屋」でした。
育児休暇を2カ月もらっていたので、家族のケアに専念できました。出産前後1週間だけ有給休暇、という方もまだまだ多い中で、しっかり育児休業をいただいていたことで、家族のケアに時間を当てられることができました。くどいですが、周囲のサポートに感謝しかありません(泣)。
出産から10日後、奥様の実家で、祖父母に温かく迎えてもらった赤ちゃんです。
ホッと安心したのもつかの間、ここから夜泣きとの闘いの日々が始まることを、この時点では知りませんでした……。
前編のまとめ
育休を取得し、出産から赤ちゃんが退院するところまでをご紹介しました。次回、後編では、
育児休業でTGは何をしていたのか?
果たして使い物になったのか? 育休で遊んでいたのでは?
といった、同僚の皆さんも気になる育休のリアルをお伝えしたいと思います。
最後まで読んでいただきありがとうございました❗
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