(この文章は、「緩和ケアを学びたい!」という総合診療医や家庭医を主に想定していますが、どの分野にいようと、あらためて緩和ケアを学びたい方にとっても参考になるはずです)

「病棟で看取ったAさん、家族はお礼を言ってくれたけど、ほかにできることはなかったのかな」
「在宅で家族に見守られながら亡くなったBさん、もう少し苦痛を取り除くことはできなかったかな」

家庭医・総合診療医として働いているとがん、非がんにかかわらず、患者さんの最期を見届ける機会が多いはずです。専攻医として働きはじめてすぐ、冒頭に挙げた「もやもや」を抱えた方は多いのではないでしょうか。

ただ、緩和ケアを学ぼうとしても、日本の総合診療プログラムで病棟や在宅といったセッティングを踏まえた緩和ケア研修を備えているのはごく一部です。必然的に、十分な訓練を受ける機会がなかった総合診療医が試行錯誤しながら患者さんの緩和ケアを担っているのが現状でしょう。

ここでは、家庭医療専門医を取得した後に在宅医療、病棟診療に従事していた私が「緩和ケアを本気で学ぼう」と当科へ入職した経過を記します。同じような問題意識をもった方々の参考になれば幸いです。

自己紹介

もともと沖縄の「オラオラ系研修病院」で初期を終え、後期は北海道の総合診療プログラムで学び、家庭医療専門医を取得しました。その後、北海道、沖縄で在宅医療と病棟診療にたずさわった後、沖縄に家族を置いて、この4月から当科に入職しました。

(余談ですが、医師になる前は、某・仏教雑誌で記者として働いていました。記者の特性として、「まだ広められていない、とっておきのネタ」があるとワクワクしてしまいます。まさに今、この文章を興奮しながら書いています。少しでも魅力が伝われば嬉しいです!)

入職前に考えていたこと

さて、決して要領がよい方ではない私にとって、新たな環境での挑戦には大きなリスクを伴いました。

「ハイパーな人たちが集まるチームに入って取り残されないだろうか?」
「40歳を超えたオジサンが若手中心の科に馴染めるのか?」
「家族と離れて独居となることで体調とメンタルが崩壊してしまわないか?」

不安を挙げればキリがありませんでした。

結論から言うと、心理的に安全な環境で毎日、楽しく、多くの学びを得ることができています。控えめに言って、最高の環境です。ここでは、家庭医TGが実際に働いてみて、ぶっちゃけどんな学びを得られているのか、共有いたします。

どんな知識を学べるのか?

疼痛管理は緩和ケア医にとって最重要のスキルです。モルヒネ、オキシコンチン、ヒドロモルフォンを筆頭にオピオイドの使い方に習熟できます。併せて、アセトアミノフェン、NSAIDsなど非オピオイド系鎮痛薬の使い方も精通できます。さらになかなかとっつきにくい鎮痛補助薬も場面ごとに特性を踏まえて、使えるようになります(もちろん、まだまだ学びの真っ只中です💦)。

がん患者さんが呈する症状への対応も大事なスキルです。同僚の医師とディスカッションしながら、最善の対応を決めていくプロセスの中で、学ぶことができます。

これらは緩和ケア科なので当然ですね。

最大の学びは「コミュニケーション・スキル」

「米国緩和ケア医はコミュニケーションのプロ」とコロンビア大学の中川俊一先生が仰っています。

米国と日本では違いもありましょうが、日本の緩和ケア医のなかには
「緩和ケア医にとっての病状説明は、外科医にとっての手術と同じだ」
と言う方もいます(ちなみに、家庭医の世界でも「家庭医にとっての家族面談は、外科医にとっての……」という言い回しがあります)。

ここまでの3カ月で一番、衝撃を受けたのは、自分ができているつもりだった患者さん、家族とのコミュニケーションの方法に見直しを迫られたことでした。いま思えば「何のスキルも身につけずに、よくやっていたな…」と過去の自分に忠告してやりたくなりました。どういうことでしょうか?

組織によって異なりますが、多くの場合、後期研修の途中から、指導医は入らず、1人で家族面談を行うことが多いでしょう(マンパワーのある病院ではそうではないかもしれません)。医師が同席しないため、フィードバックをもらう機会は年々、少なくなっていきます。看護師やソーシャルワーカーからフィードバックをもらえるかどうか、といったところです。

必然的に、患者さんや家族の反応をみて「伝わったみたいだな」とか、あるいは「伝わってないみたいだな」と類推してきました。医師への遠慮もあって、患者さんや家族は「いろいろ話してもらったけど、よくわからなかった」と直接は言いません(たまに看護師さんに打ち明けることはあります)。そうした背景もあり、病状説明や悪い知らせの伝え方など、病棟や在宅でこれまで、それなりに対応できているつもりになっていました。

ところが、当科で働きはじめて、課題の設定の仕方から、患者・家族への説明の方法まで、多くの改善点を指摘されました。その全てが納得させられることでした。

当科で学ぶ中で、様々なフレームワークを意識しながら面談に臨むようになります。その際、必ず指導医と面談前に課題を整理してから臨みます。「この面談の目的は?」「どんなスキルが必要かな?」「この面談における、TGさんのテーマは?」といったことを明確にして面談に入ります。そして、面談後には必ず振り返りを行います。そこで面談の中身はもちろん、とりわけスキルについての濃厚なフィードバックをもらいます。

正直に言えば、自分ができていないところを突きつけられるのはとてもツラい経験でした。しかし、見方を変えれば、新たなスキルや経験を積み重ね、向上できる余地がある、つまり「伸び代」があるわけです。医師8年目でこうした環境に身を置けていることは、本当に有り難いことだと日々、感じています。

より成長できる環境を一緒に作りましょう!

「緩和ケアの知識を本気で学びたい!」と入って3カ月。目下のところ、コミュニケーション・スキルこそが一番の学びとなっています(もちろん、症状緩和に必要な知識も毎日、必死で勉強しています💦)。

ここでは触れられていませんが、人生の最終段階における意思決定支援や臨床倫理、ケアの移行、ケアの調整、在宅医療との連携など、高齢者医療のフィールドにおける、ありとあらゆるテーマを当科では日々、扱っています。

「緩和ケアの定義」を考えれば、あらゆるジャンルを学ぶ必要があることは自明の理です。

日本緩和医療学会ホームページ「緒言・提言」より
https://www.jspm.ne.jp/proposal/proposal.html

飯塚病院「連携医療・緩和ケア科」では、同じ志をもって、ともに学び、成長しあえる仲間を増やしていきたいと考えています。興味が少しでもある方はホームページのトップからぜひコンタクトをとってみてください!(家庭医・TG)

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