みなさんこんにちは!

細かい単語の使い方を指摘して後輩から怪訝な顔で見られるCOOです。

今日は、緩和ケア設定で使用される略語についての投稿です。

正しい単語の意味を覚えて、正しく医療現場で使いましょう!

BSC; Best Supportive Care

まずはBSC; Best Supportive Careです。

この単語は「化学療法を中止し、支持療法中心に行うこと」を意味する単語として使用されています。

Pubmed で検索したところ、この言葉を初めて使用した論文が発表されたのは1988年4月のようです。

こちらがその論文になります。

この論文の概要ですが、進行性非小細胞癌に対する併用化学療法に関して述べられているもので、BSCとVP療法、CAP療法を比較したものになっています。

つまり、BSCは腫瘍学の臨床試験で用いられている「化学療法を行わない群」というわけです。

Control群や化学療法不実施群のような表現ではなく、Supportive Careに全力で取り組むぞ、という意味合いで使用されるようになったのではないかと、当時の腫瘍内科の先生方の思いを推察しています

Supportive Care(支持的なケア)には常にBestを尽くしたいですね。

ところでPalliative Care(緩和ケア)とSupportive Care(支持的ケア)は同じような言葉の意味ですが、どう違うのでしょうか?

ASCO(米国臨床腫瘍学会)のDaily Newsのまとめを参考にすると

  • Supportive Careは、がん治療の副作用対策として生まれ、終末期ケアとホスピスケアに歴史的なルーツを持つPalliative Careは、深刻な病気の患者の可能な限りの生活を支援することに専念する専門家としての地位を確立している。
  • ACS(米国がん学会)によると、「緩和ケア(または支持療法)とは、がんなどの重篤な病気によって引き起こされる症状を和らげることに重点を置いたケアである。患者さんがより快適に過ごせるよう、病気のどの時期にも行うことができる。」と定義されている。
  • NCI(米国国立がん研究所)が定義する支持療法とは「重篤な疾患や生命を脅かす疾患に罹患した患者の生活の質を向上させるために行われるケア」である。
  • どちらも同じような意味ではあるが、米国での調査では、「Palliative care」は治療を諦めるというニュアンスを含んでいるので躊躇されやすく、「Supportive Care」のほうが親しみを持たれている。

ということでした。

結語として「名前はどっちでもいいので、すべての患者がこの重要なサポートにアクセスできるようにすること」と述べられています。

なお全日本民医連トピックスでは、このBSCという言葉が本来の化学療法不実施という意味を超えて、「病院医療の一方的撤退宣言」として使われているのではないか?と警鐘を鳴らしています。

緩和ケアを専門とする者や緩和ケアに詳しい臓器専門家・プライマリ・ケア従事者が連携して、地域での医療を支える体制が希望されることがメッセージとして書かれています。

CMO; Comfort Measures Only

あまり馴染みのない言葉ですが、直訳すると「快適さにつながる処置のみ」となります。

Pubmed 検索すると、案外論文に記載されたのはBSCよりも早く、1982年の4月でした。

abstractは確認できませんでした…letterでしょうか

CMOの定義ですが、論文でもはっきり定義されたものは少なく、ここではThe Joint Commission International (世界的な医療の質・医療安全の評価や認定を行う団体)のCMOの定義を以下に引用します。

Comfort Measures Only refers to medical treatment of a dying person where the natural dying process is permitted to occur while assuring maximum comfort. It includes attention to the psychological and spiritual needs of the patient and support for both the dying patient and the patient’s family. Comfort Measures Only is commonly referred to as “comfort care” by the general public. It is not equivalent to a physician order to withhold emergency resuscitative measures such as Do Not Resuscitate (DNR).

https://manual.jointcommission.org/releases/TJC2022A1/DataElem0031.html

(日本語訳)CMOとは、最大限の快適さを確保しつつ、自然な死のプロセスを許容する、死にゆく患者に対する医療行為のみを行うことである。これには、患者の心理的・精神的ニーズへの配慮や、死にゆく患者とその家族の両方へのサポートが含まれる。CMOは、一般的には「コンフォートケア」と呼ばれる。これは、蘇生不能(DNR)などの緊急蘇生措置を差し控えるという医師の指示と同等のものではない。

なおJCIでは特定カテゴリの病態の時にCMOであるかどうかを確認しているかどうか?が医療の質の指標であるとしています。

またこちらの論文では、176名の医師にCMOについての調査を行った結果を報告しています。

こちらでは78.5%の医師がこの言葉を使いやすいと考えていると報告しています。

たしかに、CMOの概念・定義が浸透さえしておけば、アルファベット3文字で済むのは助かりますね。

ただこの論文の中にも定まった定義がないことや、医師間で捉え方の違いがあること(例えば抗生剤を使用するか否かなど)について、注意する必要があるとしています。

最終的に、この論文の中ではCMOを次のように定義しています。

Comfort measures only is the level of care offered to a patient when life expectancy is weeks to months or less, consisting of: oxygen per nasal cannula, oral nutrition and hydration as tolerated, no blood draws regardless of indication, no transfer to critical care unit, optional case-based antibiotics therapy, opioids for maximal symptom relief and ideally DNR/DNI.
Finally,

Zanartu C, Matti-Orozco B. Comfort measures only: agreeing on a common definition through a survey. Am J Hosp Palliat Care. 2013 Feb;30(1):35-9. 

(日本語訳)CMOとは、余命が数週間から数ヶ月以下の場合に患者に提供されるケアのレベルであり、その内容は、鼻カニューレによる酸素吸入、許容範囲内での経口栄養と水分補給、適応の有無にかかわらず採血を行わない、ICU・HCU等への移動を行わない、オプションとしての症例に応じた抗生剤治療、最大限の症状緩和のためのオピオイド使用、理想的にはDNR/DNIオーダーである。

つまるところ、「症状緩和治療のみを行う」という意味の単語のようです。

BSCよりもCMOのほうが適合する状況は多いかもしれませんね。

略語が好きな方は使用してみるとよいかもしれませんが、先述の通り日本ではまだ浸透していませんのでカルテに書いても理解されないかもしれません。

こういった言葉の定義は施設で統一させることが重要ですね。

AND;Allow Natural Death

直訳すると「自然な死を許容する」となります。

日本でも「自然な形で最期を迎えたい」という表現をすることはありますので、受け入れられやすい表現ではないかと思います。

ANDについてはCirculation誌で次のように書かれていました。

Do Not Attempt Resuscitation (DNAR) order is given by a licensed physician or alternative authority as per local regulation, and it must be signed and dated to be valid.15,16 In many settings, “Allow Natural Death” (AND) is becoming a preferred term to replace DNAR, to emphasize that the order is to allow natural consequences of a disease or injury, and to emphasize ongoing end-of-life care.17 The DNAR order should explicitly describe the resuscitation interventions to be performed in the event of a life-threatening emergency. In most cases, a DNAR order is preceded by a documented discussion with the patient, family, or surrogate decision maker addressing the patient’s wishes about resuscitation interventions. In addition, some jurisdictions may require confirmation by a witness or a second treating physician.

Morrison, Laurie J et al. “Part 3: ethics: 2010 American Heart Association Guidelines for Cardiopulmonary Resuscitation and Emergency Cardiovascular Care.” Circulation vol. 122,18 Suppl 3 (2010): S665-75. doi:10.1161/CIRCULATIONAHA.110.970905

(日本語訳)「蘇生を試みない」(DNAR)の指示は、医師免許を持つ者、または地域の規制に従った代替機関によって出され、署名と日付が入っていなければ有効ではない。多くの環境では、DNARに代わる用語として「自然死を認める」(AND)が好まれるようになってきており、病気や怪我の自然な結果を認めるための指示であることを強調し、継続的な終末期ケアを重視するようになっている。ほとんどの場合、DNAR オーダーの前に、蘇生処置に関する患者の希望について、患者、家族、または代理決定者との話し合いが文書化される。また、管轄区域によっては、目撃者や第二の担当医による確認が必要な場合もある。

日本集中治療学会倫理委員会のDNARについての考え方でもこのことは記載されています。

こちらの略語もあまり日本のカルテでお見かけすることはありませんが、「蘇生を試みない」よりも「自然な形で最期を迎える」のほうが柔らかく聞こえますので、受け入れられやすいかもしれませんね。

DNAR; Do Not Attempt Resuscitation

こちらはこの10年で随分市民権を得ているように思います。

日本集中治療医学会はDNAR指示は「心停止時に心肺蘇生をしない指示であり,通常の医療・看護・ケアに影響を与えない」ことを強調しています。

当院でも電子カルテ上でDNAR指示を登録することができますが、その時の注意点として上記に準じた定義が表示されるようになっています。

DNAR指示に関して日本集中治療医学会の勧告では「この十数年間で終末期医療(人生の最終段階における医療)のあり方に関する理解が深まり、患者の尊厳を無視した延命医療の継続は大きく減少していると私どもは信じている。しかし、DNAR指示のもとに基本を無視した安易な終末期医療が実践されている、あるいは救命の努力が放棄されているのではないかとの危惧が最近浮上してきた。」と記載されています。

安易な終末期医療とは、「DNARだから輸血しない、抗生剤治療をしない」といった差し控えを表します。

勧告では次の7点が述べられています。

  1. DNAR指示は心停止時のみに有効である。心肺蘇生不開始以外は集中治療室入室を含めて通常の医療・看護については別に議論すべきである(注1)。
  2. DNAR指示と終末期医療は同義ではない。DNAR指示に関わる合意形成と終末期医療実践の合意形成はそれぞれ別個に行うべきである(注2)。
  3. DNAR指示に関わる合意形成は終末期医療ガイドラインに準じて行うべきである(注3)。
  4. DNAR指示の妥当性を患者と医療・ケアチームが繰り返して話合い評価すべきである(注4)。
  5. Partial DNAR指示は行うべきではない(注5)。
  6. DNAR指示は日本版POLST – Physician Orders for Life Sustaining Treatment – (DNAR指示を含む)「生命を脅かす疾患に直面している患者の医療処置(蘇生処置を含む)に関する医師による指示書」に準拠して行うべきではない(注6)
  7. DNAR指示の実践を行う施設は、臨床倫理を扱う独立した病院倫理委員会を設置するよう推奨する(注7)。
注釈

日本循環器学会の循環器疾患における緩和ケアについての提言では、

DNAR 指示は,患者の状態,医学的適応,ACP の話し合い,事前指示,患者の推定意思,家族の意向などを総合的に判断し,患者および家族の同意のもと医師によって行われるべきものである.

日本循環器学会 / 日本心不全学会合同ガイドライン 2021年改訂版 循環器疾患における緩和ケアについての提言

と記されています。

急性期医療の現場では入院時などにDNAR指示の作成が行われることが多いのではないかと推測しますが、本来であればこれまでのACPや作成された事前指示、患者の意思(難しければ推定意思)を総合して判断するほうがよいということです。ACPはDNAR指示作成のためのものではありませんが、状態が悪くなる前のACPの重要性がみ

心停止時以外の状況における酸素投与,栄養・輸液,鎮痛・鎮静薬,抗不整脈薬,昇圧薬,人工呼吸器,血液浄化法などの差し控えや中止などについては,「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」25, 26)や「救急・集中治療における終末期医療に関するガイドライン」41)などをふまえて別途議論する必要がある.

まとめ

いかがでしたか?

普段使っている緩和ケアに関する略語について調べてみましたが、組織に所属するスタッフ全員が、統一した定義を正しく理解し、適切に運用するということが重要だということが改めてわかりました。

こうした単語を適切に使うこと、意味を知ることは組織における文化の形成にもつながるのではないかと思います。

思考に気をつけなさい。それはいつか言葉になるから。
言葉に気をつけなさい。それはいつか行動になるから。
行動に気をつけなさい。それはいつか習慣になるから。
習慣に気をつけなさい。それはいつか性格になるから。
性格に気をつけなさい。それはいつか運命になるから。

マザー・テレサ
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