日本、筑豊地域の緩和ケア病棟
飯塚病院には18床の緩和ケア病棟(無料 16床、有料 2床;すべて個室)があります。同じ飯塚・嘉穂医療圏には済生会嘉穂病院にも緩和ケア病棟があり、飯塚医療圏では38床あります。日本全体では緩和ケア病棟のベッドは8000床強あると報告されており、人口10万人あたりに換算すると6.3床です。飯塚医療圏では人口10万人あたり21床ですから、約3.5倍あることになります。とはいえ、近隣の直鞍医療圏、田川医療圏に緩和ケア病棟がないため、この38床で3医療圏をカバーしていることになります。
これまで緩和ケア病棟は「残った時間が長くないがん末期患者が最期を過ごすところ」というイメージがありました。癌でなくなる方は日本で1年間に37万人いると報告されています。飯塚医療圏では約600人弱の方が1年間に亡くなっていると考えられます。そう考えると飯塚医療圏の38床で足りるのか心配になりますね。実際に緩和ケア病棟で亡くなるがん患者さんは12.5%と報告されています。
緩和ケア病棟の役割
緩和ケア病棟は医師、看護師、医療ソーシャルワーカー、薬剤師、介護士、ボランティアなど多数の専門職が集い、専門的緩和ケアが提供できる体制が整っています。専門的緩和ケアとは、医療職全員が緩和ケアを提供できるようになるべきで、誰しもが行うべき緩和アプローチを基本的緩和ケアと呼ぶことに対しできた言葉です。複雑性の高い、緩和が困難な苦痛を専門的にケアできることが求められています。
多死社会を迎え、緩和ケア病棟やその担い手は少しずつ増えているものの、全てのがん患者が緩和ケア病棟で過ごすには難しいのが現状です。緩和ケア病棟には終の棲家というより、「専門的緩和ケアを必要とする人が入院する病棟」という機能が求められるようになっています。ICU; Intensive Care Unit のように、Palliative Care Unit; PCUと私達は呼んでいます。
そういった状況も踏まえ、現在緩和ケア病棟では入院期間による診療報酬の増減(長くいると緩和ケア病棟入院料が減額される)や、緩和ケア病棟の入院待ち期間の調査、緩和ケア病棟から自宅退院できた割合の調査などが行われています。
緩和ケアのUniversal Health Coverageを目指して
WHPCAは緩和ケアのUniversal Health Coverageの達成を目標に打ち出しました。UHCとは、人が必要なときに、必要な医療サービスにアクセスできることを表します。金銭面だけでなく、物理的なアクセスや文化・習慣的アクセスも重要だとしています。日本の緩和ケアはUHCを達成しているでしょうか?金銭面は国民皆保険や介護保険、高額療養費助成制度などが整備されていますが、物理的なアクセスはどうでしょうか?あなたのいる地域に緩和ケアチームや緩和ケア病棟はありますか?それらの情報にアクセスできますか?希望すれば緩和ケアを受けることができますか?・・・まだまだ緩和ケアへのアクセス性は改善の余地があるのではないかと感じています。
緩和ケア病棟だけですべての緩和ケアニーズをカバーすることは不可能です。急性期病床や療養病床、介護施設、自宅でもその人にとって必要な緩和ケアが提供できる地域づくりが重要で、私達も療養病床へのアウトリーチや在宅緩和ケアの実践などを行っています。UHCを実現するための人材育成に当科はこれからも貢献し続けます。