後期研修医の鈴木です。
 市立奈良病院から当科へローテに来られていた総合診療科専攻医の小城先生が、これまでの当科での研修を振り返って最終発表をしてくださいました。今回は、先生が抗菌薬を投与するべきか悩んだ終末期の患者さんの症例を通じ、終末期の抗菌薬治療についての学びを共有していただきました。
 (個人情報保護のため、症例の詳細は適宜修正しております。)


抗菌薬、使う?使わない?終末期医療の現場で直面した葛藤

 終末期の患者さんはしばしば、誤嚥性肺炎や尿路感染症、胆管炎などの細菌感染症を繰り返し合併されます。このような繰り返す感染症に対して、どれほど治療を行うべきか悩んだ経験をお持ちの先生も多いのではないでしょうか。小城先生は2例の終末期患者さんを例に挙げ、研修中に直面した倫理的葛藤を投げかけられました。

・80代の胆管がん患者のAさん
 Aさんは胆管閉塞による胆管炎を繰り返す中で徐々にADLが低下してきており、「点滴の1時間のために寝ておくのもきつい」と仰るほど、許容できる医療行為も少なくなってきている状況でした。ある日、Aさんが閉塞性黄疸、発熱のため入院し、閉塞性胆管炎が強く疑われる状況となりました。この方に抗菌薬を投与しますか?

・70代の肝細胞がん患者のBさん
 Bさんは肝細胞がんの化学療法が奏功せず、1年前に化学療法中止となった方です。外来では「治らない病気があるのに薬に頼って長生きしている状態は嫌で、血圧の薬を飲むのも本当はやめたい」という価値観を持たれています。ある日、Bさんが誤嚥性肺炎を契機に急性呼吸窮迫症候群となり、救急搬送された病院の入院病棟で、リザーバーマスクで酸素10L/minを投与してもSpO2 60%台の状況となりました。この方に抗菌薬を投与しますか?

終末期の医療倫理を考える

 このような悩ましい症例でよく使用されるフレームワークに、臨床倫理の4分割表があります。小城先生が教科書をもとに作成された、臨床倫理の4分割表を発表スライドから引用させていただきました。


 小城先生はまず、終末期の患者さんに対する抗菌薬投与について、医学的適応を検討されました。

CQ:終末期の患者さんにおいて、抗菌薬投与は有効か?

  •  UpToDate:終末期(予後が数日と予測される)の患者さんに対する抗菌薬投与が生存期間の延長や症状緩和に寄与するエビデンスは不十分。CDIや多剤耐性菌のリスク、治療負担などもあり、慎重に適応を判断する必要がある。
  •  Fast Fact:予後が数か月から1年と予想される認知症患者の肺炎において、抗菌薬治療が生存期間を延長したが快適性は低下した予後が数週間から数か月の場合、抗菌薬が有意な生存率向上をもたらす証拠はほとんどない尿路感染症に限っては、抗菌薬治療によって60~92%の患者さんに症状改善が見られた。一方、抗菌薬治療によって抗菌薬関連下痢症などの副作用報告もある。
  • 総説論文症状緩和に対する抗菌薬投与の有益性は明確でない最も有益である可能性が高いのは尿路感染症による疼痛、排尿困難の治療に抗菌薬が使用されている場合である。加えて、帯状疱疹やCDI、皮膚カンジダ症などでは抗菌薬によりQOLが改善する可能性があると考えるのが妥当である。その他の感染症においては、症状緩和に対する抗菌薬の有益性を示唆する明確な証拠はない。[Clin Infect Dis. 2024 Mar 20;78(3): e27-e36]
  • 観察研究論文:認知症終末期(FAST 7)の患者さんの肺炎で抗菌薬投与群を非投与群と比較したところ、平均調整生存期間が273日増加した一方、「快適性」が有意に減少した。[Arch Intern Med. 2010 Jul 12; 170(13): 1102-7]

 上記から、終末期の患者さんが感染症を発症した時、まずはそもそも抗菌薬投与によって何らかの有益性が得られるのか?という医学的適応自体を検討する必要があると小城先生はまとめられました。

終末期の意思決定のためのフレームワーク

 これを踏まえて臨床倫理の4分割表を改めて確認すると、特に終末期の患者さんでは、患者さんの意向や周囲の状況が意思決定に重要なのではないかと、小城先生は指摘されました。追加の学習を行った小城先生は、終末期の患者さんの治療方針を検討するREMAPフレームワークに出会いました。

REMAPフレームワーク

  1. Reframe(再構成): 予測される臨床経過とケアの目標を再評価する。
  2. Expect Emotion(感情への対応): 患者や家族の感情的な反応を認識し、適切に対応する。
  3. Map Out Patient Goals(患者の目標の明示): 患者と家族の優先事項を明確にする。
  4. Align with Goals(ゴールに向けた調整): 患者の価値観・希望と医療者の認識を一致させる。
  5. Propose a Plan(計画を提案する): 設定されたゴールを踏まえ、医療者からの推奨を提案する。

 医学的適応が検討されている前提で、本人や家族が生命予後の延長を期待しているのか、それとも症状緩和を優先しているのかという治療の目的を確認して、個別性のある治療選択の提案をすることが望ましいと、小城先生はまとめられました。


【まとめ】終末期の抗菌薬投与は患者さんの価値観と治療の目的を確認する

 医療者として“何かしてあげたい”という気持ちは強いものですが、「何もしないことが最善のケア」である場面も少なくありません。感染症を積極的に治療することがQOLを損なう場合もあることを知ったうえで、本人、家族と丁寧な意思決定を行いましょう。

 小城先生、研修と発表お疲れ様でした!


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