後期研修医の鈴木です。
 小倉記念病院から当科へ半年間のローテに来られている白江先生が、これまでの当科での研修を振り返って中間発表をしてくださいました。今回は、白江先生が1人のスピリチュアルペインを抱える患者さんとかかわる中で得られた、コミュニケーションについての学びを共有してくださいました。
(※個人情報保護のため、症例の内容は一部修正しています。)


「父としての存在」を守りたかったAさん

 Aさんは自営業を営まれている、末期癌患者の男性です。在宅導入の方針となり、家族の受け入れ体制も万全でしたが、ADLはほぼ全介助で、患者本人から「もう少しリハビリを頑張って動けるようになりたい」との希望があり、自宅退院が延び続けていました。
 白江先生はAさんの感情や言葉を引き出そうと家族や自宅の話題を振ってみるものの、Aさんから良い反応は帰って来ません。白江先生の中で、「家に帰りたいのではなかったか?」「リハビリをするとしても、リハ転院するだけの時間は残されていない…」と、モヤモヤが募ります。
 病棟で心理カンファレンスが開かれ、家に帰ることで何か失うものがあるのではないか?という指摘がありましたが、会話の中でAさんから答えを得ることはできないまま時間が過ぎていきました。Aさんは次第に経口摂取ができなくなり、浮腫が増悪して手足も思うように動かせなくなっていきました。そんなある時、Aさんは突然堰を切ったように涙を流しながら、こう話されました。

弱った姿を子どもたちに見せたくない。子どもたちが甘えられるような、強い父親のまま逝きたい。

自己の存在と意味の消滅から生じる苦痛

 村田久行先生が確立した「村田理論」では、自己の存在と意味の消滅から生じる苦痛(スピリチュアルペイン)の構造を、時間存在・関係存在・自律存在の3つの柱で説明されています。
 これまでご自身でできていたことができなくなっていく自律存在の喪失、そして最期の時が刻一刻と迫っていく時間存在の喪失に直面する中で、これまで子どもたちに見せてきた「強い父親」像を維持することが、Aさんが考える関係存在の守り方だったのではないか、と白江先生は気付きました。

 数週間後、当院の緩和ケア病棟で家族に見守られながらAさんは永眠されます。主治医チームとAさんのご様子を共有していた長男さんは、「父の望んだ形で見送ることができてよかった」と、結末に納得されたご様子でした。

BestではなくBetterを目指すという選択

白江先生はこのケースを振り返り、「スピリチュアルペインを早期に解決できていれば、Aさんが当初望んでいた自宅退院が実現できていたのではないか」と悩まれたそうです。そこで、今回のケースで予測されるBestシナリオとWorstシナリオをそれぞれ書き出し、状況を整理されました。

  • Bestシナリオ:在宅看取りという当初の希望を完全に実現する
  • Worstシナリオ:本人の本心が分からず、混乱のまま終末期を迎えてしまう
  • 実際の症例:本人の本心を引き出した上で、病院での看取りを選択できた

 実際の症例は、Bestシナリオ通りには進まなかったものの、Worstシナリオを避け、いわばBetterな結果に至ることができました。緩和ケアには正解がないからこそ、常にBestのシナリオを実現し続けることは困難です。Worstシナリオを避け、患者さん、家族、医療者が納得できるBetterな着地点を確保する視点が大事なのかもしれません。

まとめ:思い通りに行かないときには二歩引いた視点を持つ

 患者さんや家族から予期せぬ反応が返ってきた時、白江先生は哲学者Peter Boghossianらの書籍を参考に、「相手の考えや意見を変えようとせず、なぜそう考えるようになったかを理解すること」を心掛けるようにしているそうです。たとえその場で臨機応変に対応できなかったとしても、相手の考えを受け止められる最低限の心の余裕を確保し、相手の言動の背景にある思いに興味を持って傾聴することで、Betterなシナリオへ繋げる糸口が見つかるかもしれない、とまとめてくださいました。

 白江先生、残る3か月も引き続きよろしくお願いします!


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