後期研修医の鈴木です。
 飯塚・頴田病院総合診療プログラムから当科へ3か月間のローテに来られていた小宮山先生が、これまでの当科での研修を振り返って最終発表をしてくださいました。今回は、最期の療養先の選択で悩みを抱える患者さんと家族への支援について、学びを共有してくださいました。

※症例の詳細については、個人が特定できないよう、適宜修正を加えています。


在宅療養と病棟療養のはざまで

【症例】進行胃がんの90代女性。元々は自宅で独居していたが、原病の進行に伴いADLが低下してきており、自宅生活が継続困難となったため、心配した家族に連れられて緩和ケア科外来を受診、同日から入院となった。入院後も全身状態は横ばいで、日常生活のほぼすべてに介助を要する状況であった。入院以降、患者は「自宅に帰りたい」と自宅退院を強く希望しており、息子さん2人が折れる形で「家に連れて帰ります」と、在宅導入の方針となった。

【経過】患者の自宅に長男夫婦と次男が通う形で在宅療養が開始されたが、家族は徐々に介護負担で疲弊し、患者と長男妻の折り合いも悪くなっていった。息子2人は葛藤しながら介護を続けたが、退院から2週間後、患者は当科へ再入院した。その後、再度環境調整を行い、最終的に患者は施設で最期を迎えられた。

 この経験を通して小宮山先生は、「これまで自宅に帰ることは良いことだと考えていたが、在宅療養は家族の協力なくしては成り立たないのだ」という学びを得たそうです。


最期の過ごし方:在宅療養と病棟療養

小宮山先生は、がん患者さんが最期に過ごす療養の場それぞれのポイントを整理しました。

  • (緩和ケア)病棟の特徴
    • 医療スタッフが24時間対応可能
    • 心理的サポートの体制も整っている
    • 面会制限など、病院特有のルールがある
  • 在宅の特徴
    • 自由度が高く「自分の家」で最期を過ごせる
    • 支える家族の負担は大きくなる
    • 訪問診療・訪問看護の回数に応じて費用が増える場合がある

 厚生労働省の2018年調査によると、がん患者が希望の場所で最期を迎えられた割合は48%であり、そのうち87%の方が自宅で過ごすことを希望されていました。一方、家族が感じる介護負担の割合は、在宅と病棟いずれにおいても40%前後と、在宅・病棟間で大きな差は見られませんでした。この数字だけを見ると、「在宅=家族へ過度に負担がかかる」というイメージは一面を見ているに過ぎないようにも思えます。


在宅療養を継続するカギ

 別の研究では、在宅療養を最期まで続けられるかどうかは、 68%が家族要因 によって左右されると報告されています。

〇在宅療養を継続できる家族の特徴

  • 患者の状態を把握し、対応することができる
  • ケアの質を高めようと努力することができる
  • 介護者としての自覚を持ち、前向きに取り組むことができる

〇逆に、在宅療養が困難になってしまう要因

  • 患者、家族の病状理解が不十分である
  • 身体症状への対応が難しい
  • 慣れない介護による疲弊
  • 「そばで見ているのが辛い」という心理的負担

 実際に負担している介護量を家族がどう受け止めるかや、また家族への支援体制によって、家族にとっての負担感は大きく変わってくるのかもしれません。


在宅療養を悩んでいる家族への支援

ある研究では、家族が在宅療養の導入を決断するまでには以下のステップがあるとされています。

  1. 病状が安定し、医療者から予後の見通しを聞く
  2. 「家に帰りたい」という患者の希望と向き合う
  3. 在宅の実現可能性について葛藤する
    • 副介護者が少ない、医療依存度が高いなど
  4. 「病状が悪くなったら病院に戻れる」という安心感を提示される
  5. 「今しかない」という周囲からの後押しが決め手になる

 これを踏まえると、家族が在宅療養の導入に迷っている時には、医療者が「自宅が難しければ安心して戻ってきてください」とお伝えすることが、家族の決断を支え、また自宅に帰ってからの家族の負担感を軽減する一助になると言えそうです。


学びを踏まえて支援を検討した症例

  • 80代男性 進行がん
    • 家族は在宅に不安を抱き、当初は病棟希望
    • 医療者が繰り返しサービスや支援を説明
    • 当初は断られたが、状態が急変し余命が数日と分かった時、家族が決断
    • 緊急在宅導入し、自宅で家族・知人に囲まれて最期を迎える

【症例】進行大腸がんの80代男性が、自宅で体動困難となり緩和ケア科へ救急入院した。本人は自宅で最期を過ごしたいと訴えていたが、家族は「自宅では自分たちが看きれる自信がない」と不安を抱いており、病棟での看取りを希望された。その後も、在宅で利用できるサービスや支援についての情報提供を面談の際などに主治医から繰り返し行ったが、家族は自宅退院に消極的であった。しかしある日、患者の病状が急変し、主治医から短い日単位の予後と家族へ告知されたことで、家族は「連れて帰るなら今しかないですね」と急遽の自宅退院を決断した。病棟と在宅チームで連携し、患者は翌日に退院、在宅導入を実現した。退院の翌日、患者は家族・知人に囲まれて最期を迎えた。

小宮山先生は、「事前に在宅の選択肢と医療者からの支援を提示し、家族が悩む時間を確保できていたからこそ、急な状態変化に直面した家族が在宅導入を決断することができたのではないか」とこの症例を振り返りました。


まとめ

  • 患者さんの希望を尊重した療養先の選定のためには、医療者が療養先のメリット・デメリットを理解したうえで、患者・家族へ情報を提示することが重要である。
  • 在宅療養を実現するカギは家族の存在である。
  • 医療者から安心感を提供することが、家族の「最期を家で迎えたい」という決断を後押しする。

 「在宅か病棟か」という二者択一をただ迫るのではなく、あえて「待ち」の姿勢を保ちながら、その時々で最善の選択肢を一緒に考えることが、療養先について揺れ悩む患者・家族の支えになるのではないでしょうか。小宮山先生、3か月間の研修、お疲れ様でした。

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