後期研修医の鈴木です。
多摩総合医療センターの梅田先生が5か月間のローテを終えて最終発表してくださいました。梅田先生は総合診療科として研修されており、普段救急外来からの緊急入院もよく受けられるそうです。そのような緊急時の意思決定や後輩への指導方法を学ぶ目的で、今回当科をローテーションしてくださいました。今回は当科で面談のフレームワークとして採用している3Stage Protocol (Emily Lu, 中川俊一. 2020. PMID:32278484)を軸に、梅田先生の学びを言語化していただきました。
「3Stage Protocol」で見えた、面談の本質
3Stage Protocolは、構造的な医療面談を行うためのフレームワークです。3Stage Protocolは以下の3ステップから構成されます。
- 現在の病状を共有する
- 患者の価値観を確認し、ケアのゴールを決める
- 治療方針を決定する
中川先生らは、これらを順に一つずつ確認していくことで、患者の価値観を汲み取った治療方針を決定することができると提言しています。
学び①:ステージ3が「ゴール」だからこそ、ステージ1と2が意味を持つ
梅田先生が特に印象的だったと語られたことは、ステージ3(治療方針)を決めるためにステージ1・2があるという気づきです。梅田先生は、呼吸状態が悪化した高齢患者の治療方針を決定する場面を例に挙げて説明されました。
- 誤嚥性肺炎を繰り返している100歳男性が、SpO2 70%(リザーバーマスク 15L/min)まで呼吸状態が悪化してきている。
- 医療者としては、救命が厳しい状態になりつつあると感じている。
- 家族が明確な治療方針の希望(ステージ3)を提示してきた。
①「もう寿命だと思っています」DNAR/DNIを提示された
→ 医療者の見通しと一致しているためスムーズに面談が進む。
②「全てやってほしい」FULL CODEを提示された
→ 医学的に無益と思われる可能性の高い治療方針が、いきなり出てきてしまった。
多くの医療者は、①のケースでは「面談が上手くいった」、②のケースでは「面談が難航した」と感じるのではないでしょうか。しかし、病状の理解(ステージ1)と本人の価値観の確認(ステージ2)を経ずに治療方針が決定されてしまうという意味では、実は①も②も患者の価値観に基づいた意思決定ができていません。梅田先生は3Stage Protocolを学んだことで、ご自身に「治療方針(ステージ3)”だけ”すぐに決めたがる傾向」があったことに気づかれたそうです。
学び②:自己説得を促す対話が鍵
そうはいっても、患者・家族に無益性の高い治療を行うことは望ましくなく、医療者の中ではある程度の治療方針が固まっていることも多いです。一方、患者・家族は医学的知識に基づいて治療方針の無益性を判断することは難しいため、上記のケースであれば「生きられる(けれども無益性の高い)」を選んでしまうかもしれません。ここで大事なことは、ステージ1と2を経て、患者・家族が自己説得を行った結果として、患者にとって無益性の低い選択を選ぶためのサポートを医療者側が行うことです。患者・家族が「自己説得(自分で決めたと納得)できる」プロセスが、面談の満足感を高めます。
そのために必要なことは基本的コミュニケーション技術の応用であると、梅田先生は以下のような具体例を挙げてくださいました。
- SPIKESモデルを用いて病状に関するBad newsを共有する
- NURSEスキルを用いて感情を表出してもらう
- 感情の表出を通じて自身の思いを言語化してもらい、自己説得を促す
学び③:患者・家族に医療者が味方だと感じてもらえる構造を作る
特に上記のケースのような場面では、医療者は患者・家族にとって辛いことを伝えたり提案する存在となるため、ともすれば医療者と患者・家族との間に対立構造を生んでしまう可能性があります。そこで梅田先生は、以下の点に気を付けることで、医療者が患者・家族の感情に寄り添って提案している、と感じてもらえるのではないかと述べられました。
①嫌なことばかりを話さない
予後や治療のことなど「医療者が話したいこと」ばかりを話すと、マイナスの感情が呼び起こされ、医療者に対しても陰性感情を抱かれやすくなってしまう。好きなことや生きがいなどプラスの感情が呼び起こされるような話をまず伺い、これから重要な話をするための関係性を作る。
②内容が一貫するような会話の流れを作る
・患者さんの好きなことは何ですか?
→「食事です」
・食事ができなくなるのは避けたいですか?
→「避けたいです」
・食事ができなくなる状態になる挿管行為は?
→「避けたいです」
もちろん患者にとって無益性の高い治療や医療者自身の私利への誘導を行ってはいけませんが、患者の利益になる選択を行えるようサポートすることは、医療者にとって必要なスキルではないでしょうか。
まとめ:面談の本質は“自身の決定に納得してもらう”こと
梅田先生の学びをまとめると、面談の目的は「治療方針を決定すること」ではなく、「患者・家族とともに“納得”を築くこと」です。3Stage Protocolを軸とした以下のような流れを自然に行えるようになると、面談が患者・家族と医療者双方にとってよりよいものになるかもしれません。
- 患者・家族が状況を正しく認知できるように前提条件を整える(ステージ1)
- 医療者を「味方」と感じてもらえるような関係性を作り、患者・家族に並走する(ステージ2)
- ステージ1と2の内容を踏まえ、価値観に寄り添った治療方針を提案する(ステージ3)
梅田先生、5か月の研修お疲れ様でした!
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