後期研修医の鈴木です。
当科で2か月間の研修をされた当院総合診療科専攻医の伊藤先生が、これまでの当科での研修を振り返って最終発表をしてくださいました。今回は、症例の経験や先行研究の考察を通じて伊藤先生が自らの死生観を深め、それが患者さんのケアにどのように影響したかを整理して発表していただきました。
※症例の詳細については、個人が特定できないよう、適宜修正を加えています。
死生観:死を見つめ、生き方を問い直す
伊東先生が死生観を見つめなおすきっかけとなったのは、がんが再発し最善の緩和的治療を行う方針(BSC:Best Supportive Care)へと移行した一人の患者さんとの出会いでした。その方は、死を「3次元から4次元のプロセスへの変化」や「場所を変えるプロセス」と表現し、極めて明確な死生観を保持していました。一般的に終末期の希望として語られる「穏やかに過ごしたい」という抽象的な表現を超えた具体的な死のイメージに、伊藤先生は深い感銘を受けたそうです。
死生観という概念は、単に死をどう捉えるかという問いに留まりません。アルフォンス・デーケン氏は、「死を見つめることは、最後までどう大切に生きるかという、自らの生き方を問い直すことである」と定義しています。つまり、死の受容を考えることは、目の前の生を全うするためのプロセスを構築することと同義であるといえます。
死生観を形作る多層的な要素
個人の死生観は、年齢や性別、個人的な体験に加え、宗教や文化的価値観といった多層的な背景によって形成されます。哲学者ウラジーミル・ジャンケレヴィッチは、死を「自分自身の死(一人称)」「親しい他者の死(二人称)」「ニュースなどで知る他者の死(三人称)」の三段階に分類しました。これらは関係性の深さによって死の捉え方に濃淡が生じることを示唆しています。なかでも一人称の死に近い体験として語られる「臨死体験」の研究では、心停止から蘇生した者の約20%が、光や花園、トンネルといった具体的な死後の世界をイメージする体験を報告しています。こうした具体的なイメージは、死の瞬間が苦痛ではないという確信や、死による自己の消滅への恐怖を軽減させる一因となり、結果として死生観の変容をもたらすことが示されています。
文化と宗教が医療決定に与える影響
死生観の根底には、その国や地域の宗教的・文化的背景が色濃く反映されています。病院の原型とされる古代ギリシャのアスクレピオス神殿が宗教的な癒やしの場であったように、医療と宗教は歴史的に密接な関係にあります。キリスト教における「神の元へ召される」という祝福の捉え方や、仏教の「輪廻転生」、日本の神道における「死後は神となって子孫を見守る」という祖先崇拝の思想は、日本人の死生観にも潜在的な影響を与えています。また、文化的価値観の相違も重要です。西洋が個人の自立性を重視するのに対し、東洋では家族や集団の意思を尊重する傾向があります。東アジアの中でも、尊厳死の法制化が早い台湾、家族による徹底した延命を尊ぶ儒教文化の強い韓国、そして「ぽっくり」といった突然の死を潔しとする日本の文化など、その様相は一様ではありません。
医療者の死生観がもたらすケアの変容
特筆すべきは、ケアに関わる医療者自身の死生観が、患者の治療方針に直接的な影響を与えるという事実です。集中治療室(ICU)における延命治療の中止や差し控えの判断において、患者側の要因以上に、担当医の宗教的信念や文化的背景が決定を左右するという研究報告があります。多職種チームで関わる際も、職種間で死生観に差異があることを自覚しなければ、チーム内での方針決定が知らず知らずのうちに医療側の信念に誘導されてしまう危険性があります。
緩和ケアに従事する医師は、死に直面する経験を重ねることで、死への恐怖が軽減し、自身の希望を投影せずに客観的な視点で治療方針を検討できるようになると言われています。死を「医療の敗北」と捉えるのではなく、苦痛を和らげ、患者が掲げる目標達成を支える過程として捉え直す「リフレーミング」の視点を持つことが、医療者自身の精神的負担を軽減し、より質の高いケアへと繋がります。
研修を振り返ってのまとめ
伊藤先生は、緩和ケア科の指導医が面談に加わった瞬間に、患者が感情を表出し、それまで停滞していた場の空気が一変する場面を何度も目撃されたそうです。そこには、単なる技法としてのコミュニケーションスキルだけでなく、自らの死生観を自覚して診療にあたることで醸し出される、医療者としての「在り方」が影響しているのではないか、と伊藤先生は振り返られました。自らの死生観を見つめ直し、それをケアの糧とするプロセスは、患者が最後までその人らしく生き抜くための支えとなるかもしれません。
伊東先生、2か月間の研修お疲れ様でした!
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