専攻医の藤田です。
飯塚病院、ハートネット病院、JCHO九州病院、浜の町病院が協力して月1回の勉強会を開催しています。
今回プレゼンターのJCHO九州病院の吉村先生で、独立型緩和ケアから急性期病院での緩和ケア科に異動されてからの取り組みについて共有いただきました。
独立型の緩和ケア病棟と急性期病院の違いを整理し、それぞれの長所を活かしながら、患者・家族、そして医療従事者にとってより良いケアを提供するために色々工夫されており、当院では行なっていない物もあり、とても興味深かったです。
緩和ケア病棟の質を決める要素とは
緩和ケア病棟において、医療の質を決める要素は大きく以下の3つと考えられているとのことでした。
- 基本姿勢(患者・家族との関わり方)
- 症状緩和の技術
- ホスピスマインド(寄り添うケア)
これらの要素がバランスよく機能することで、緩和ケアの質は向上します。しかし、施設の性質によって、得意とする分野には違いがあります。
独立型の緩和ケア病棟
- 患者・家族と密接な関係を築きやすい
- そばにいる時間を確保しやすい
- 検査・治療の選択肢が限られる
急性期病院の緩和ケア
- 専門的な症状緩和が可能
- 設備・薬剤の選択肢が豊富
- スタッフの業務量が多く、患者・家族との関わる時間が短くなりがち
吉村先生は、独立型病棟で培った「患者に寄り添う文化」を急性期病院にも適用できないかと考え、取り組みを開始されました。

1. バイタル測定の頻度について再考
着眼点
- ほぼ毎日バイタル測定を行っているが、その医学的根拠は明確ではない。
- 本当に毎日定期的にバイタル測定を行うことが必要だろうか。
データと対応
- 2012年の研究では、死亡の2~3日前から血圧・脈拍の低下が顕著になるが、それ以前は大きな変化がないことが示されている。
- そこで、全国の緩和ケア病棟のデータをもとに検討し、「バイタル測定は週1回を基本とする」という形に変更。
- 看護師の業務負担が軽減され、患者・家族への負担も減少。
変更後、現場の看護師からは「測定の必要性を考えるようになった」「休日・祝日の業務負担が減り、患者ケアに集中できる」といった肯定的な意見が寄せられました。
2. 緩和ケア病棟での酸素投与について再考
着眼点
- 高流量の酸素投与(例:マスクで10L)が一般的に行われていた。
- しかし、ガイドラインでは「呼吸苦がなければ酸素は不要」とされている。
データと対応
- 2023年のガイドラインをもとに、適正な酸素投与量を検討。
- 参考文献では、「最大5Lまでの酸素投与」で十分な効果があると示されている。
- これをもとに、「鼻カニューラ5L以下を基本とし、マスクの使用は最小限にする」方針に変更。
変更後、看護師からは「低酸素状態でも、患者の苦痛がなければ酸素投与を控えられるようになり、安心してケアできるようになった」との意見がありました。
3. 死亡退院の方法を再考
正面玄関からの退院について
独立型の緩和ケア病院では、患者の最期のお見送りを「正面玄関から行う」ことが一般的でした。
その背景として下記のアンケートがあります
遺族アンケート結果
- 「正面玄関から退院できたことで、家族として誇りに思えた」
- 「ホスピスならではの温かい見送りだと感じた」
- 一方で、「他の患者の目が気になった」との意見も一部にありました。
アンケートを踏まえて
- 正面玄関からの退院を希望するか、専用口を利用するかを遺族が選択できるように変更。
- 最期の時間をどう過ごすかは、家族ごとに異なるため、個別対応を重視。
現在、希望する遺族の約7割が正面玄関を選択しています。しかし、一部の近隣住民から苦情が寄せられるなどの課題もあり、適切なバランスを検討中されているそうです。
急性期病院ではどうしているか
正面退院はまだ導入されていませんが、顔を出したまま退院するか、顔を白い布をかけて退院するかというところは選択性にしているそうです。
また、正面退院につきましてはこちらの文献もご参照ください。
4. 傾聴ボランティア・音楽療法の導入
目的
- 医療者だけでは聞き出せない、患者・家族の気持ちを引き出す。
- 精神的なサポートを提供し、ケアの質を向上させる。
実施内容
- 傾聴ボランティア: 臨床宗教師などが患者・家族の話を傾聴する活動を実施。
- 音楽療法: 音楽療法士がマンツーマンで演奏を行い、リラックスや回想を促進。
導入後の反応
- 「家族として、患者と穏やかに過ごせる時間が増えた」
- 「音楽療法によって、患者が安心して最期の時間を過ごせるようになった」
ボランティア活動のため病院の収益には直接関わりませんが、病院側も「ケアの質を向上させる取り組み」として積極的に支援してくださっているそうです
今後の展望
- 現場スタッフの意見を取り入れながら、継続的に改善を図る。
- 医療者の負担を減らしつつ、患者・家族にとって最善のケアを提供する。
- 緩和ケアに関する情報共有を強化し、より良いチーム医療を目指す。
本発表は、単なる業務改善ではなく、「患者・家族にとってより良い緩和ケアとは何か」を常に問い続ける姿勢の重要性を示すものでした。
緩和ケアの提供に携わる皆様とともに、今後もより良いケアを模索していきたいと考えています。
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