後期研修医の鈴木です。
 当科で半年間の研修を修了された藤田医科大学総合診療科専攻医の辻先生が、これまでの研修を振り返り最終発表を行ってくださいました。今回は、がん終末期のスピリチュアルペインに対する構造的な評価とアプローチについての学びを共有していただきました。

※症例の詳細については、個人が特定できないよう、適宜修正を加えています。

症例の概要と経過

辻先生が担当したのは、数年前に大腸癌に対して左半結腸切除術を受けたAYA世代の患者さんです。1年前に大腸癌の再燃に伴う腹膜播種、悪性腸閉塞を発症し、人工肛門造設術が施行されました。その後、抗がん剤治療を行ったものの副作用のために継続困難となりました。積極治療の終了後に不安が増悪し、1人で過ごすことが困難となったため、当科へ相談がありました。患者さんの経過を整理すると、治療継続期には治療を受けることと仕事を続けることが患者さんの希望の骨格となっていましたが、治療終了と体調悪化に伴ってこれらの希望が失われ、死の恐怖と孤独によって不安が増悪していました。腸閉塞の再燃の治療のため入院されると、入院後は不安が改善し、多職種の関わりによって前向きな発言が見られるようになっていったものの、その後も腸閉塞の再燃を繰り返し、絶食を余儀なくされました。

全人的苦痛とスピリチュアルペインの構造化

 辻先生は、捉えきれなかった不安の全体像を整理するため、全人的苦痛(トータルペイン)の概念を用いてアセスメントを行いました。全人的苦痛は身体的、精神的、社会的、スピリチュアルな要因の相互作用で生じ、それぞれが独立して存在するのではなく、相互に増幅し合います。辻先生はその中でも特にスピリチュアルペインに焦点を当て、3次元モデルを用いて評価を行いました。3次元モデルとは、患者さんの苦痛を以下の3つの軸に分けて整理する枠組みです。

  • 自律性: 自分でいられるかという感覚(自分で対応できるという「自己効力感」や、過去の自分らしさを継続できるという「自己の連続性」)。
  • 関係性: 他者とのつながりや孤独。
  • 時間性: 未来への希望や見通し(死の不安や希望)。

実際の患者さんの発言をこのモデルに当てはめると、次のような苦痛が構造化されました。

  • 関係性: 「話す人がいない」「悩みを周囲に相談できない」といった孤独感。
  • 自立性(自己効力感・自己の連続性): 「どうしたらいいのか分からない」「~できたことができなくなった」という苦痛。
  • 時間性: 「朝が来てしまった」「長い1日が始まってしまう」という希望の薄れ。
  • 領域をまたぐ苦痛: 母親に対する「負担をかけてしまっている」という罪悪感(関係性・自立性)や、「残されている人のために自分ができることは全部しておかないと」という思い(関係性・時間性)。

スピリチュアルペインに対する介入

 この苦痛に対し、辻先生は以下の4つの介入を設定し、継続的に反復して実施しました。

  1. 症状緩和と見通しの提示: 精神的・心理的負担へのアプローチに先立ち、身体症状の緩和を優先して行った。嘔気や腸閉塞への対応を行うとともに、病情や治療方針を紙に書いて説明することで、身体的苦痛と将来への予測不能感を低減させました。
  2. 安全基地の確保: 1回の長時間の面談を行うよりも、短時間であっても頻繁に病室を訪れて声をかけました。また、多職種連携を通じて人間関係のつながりを構築し、安心感を提供しました。
  3. 小さな達成の支援: リハビリ、ストーマ交換、シャワー、コンビニへの買い物など、その日に患者さんができたことや自分で選択できたことを一緒に確認し、承認しました。
  4. 意味・希望の再構成: 大きな希望を小さく具体化し、「食事を少し食べる」「いつもより歩いてみる」といった実行可能な小さな希望への再構成を試みました。

 腸閉塞の再燃、嘔吐、絶食、不眠、孤独といった事象により患者さんの心が揺らぐたび、辻先生はこれら4つの介入を反復して行いました。この介入プロセスを経て、患者さんの言動には変化が現れました。母親に対して積極的に感謝を伝えることができるようになり、「食べられるものがあるだけでも幸せ」「家に帰ることなんてできないと思ったけれど、帰る目標を持てた」「朝が来ることが嫌だったけれど、朝が来てよかったと思えるようになった」といった前向きな言葉が聞かれるようになりました。この経験を通じて辻先生は、「スピリチュアルペインへの介入は、心が決して崩れなくなるようにすることではなく、心が崩れたとしても回復できる手段を増やしていくこと」という気づきを得ました。また、できたことをともに承認する作業が患者さんの自己効力感や小さな希望を支える基盤になることを学び、「自分自身が患者を理解し、1人でなんとかしなければならない」という姿勢から脱却したことで、多職種の視点を借りてより幅の広い支援を検討できるようになりました。

研修を振り返ってのまとめ

 辻先生は、患者さんから「何が不安かわからない」と訴えられた際、その不安をどのように理解し支えればよいかが見えず、支援の方向性を見失うことがあったと振り返りました。また、従来は「できないこと」「悪化していること」「危険なこと」に視点が向きがちで、患者さんがその日達成できたことを十分に承認できていなかったという省察も得られました。今回、全人的苦痛の視点や3次元モデルを活用して苦痛を構造化することで、対応の明確な方向性を見出すことができるようになりました。色々なフレームワークを学ぶことの意義が詰まった事例だったと思います。辻先生、半年間の研修お疲れ様でした!

スタッフ募集中!

飯塚病院 連携医療・緩和ケア科は2027年度の内科専攻医・後期研修医・スタッフ医師を募集しています!お仕事などで大変な日々をお過ごしのことと思いますが、オンラインでの就職面談や病院紹介も承っております。

ぜひお気軽にお申し込みください!

緩和医療専門医をめざすあなたへ

当院では緩和医療専門医を目指す医師を募集しています!

興味を持っていただけた方は、お気軽に以下のフォームよりご連絡ください!

  • 見学は1日から3日(それ以上の長い期間は要相談)で承ります。
  • 総合診療科頴田病院(かいたびょういん;総合診療医が中心となっている96床のコミュニティホスピタル)などの見学もあわせて希望される場合、可能な限り調整させていただきます。
  • お申し込みを頂いたあと、具体的な見学内容の希望についてのアンケートフォームを送信させていただきます。
  • みなさまからご連絡、心からお待ちしております!

Welcome!!
見学を申し込む
申込みフォームに移動します

オンライン面談について

  • 緩和ケアの研修や当院での勤務にご関心があっても、こういった社会状況では見学が難しいという方もいらっしゃると思います。
  • そこでオンラインでの情報交換やご質問へのご回答もおこなっております。
  • 個別に勤務の様子や研修内容、具体的な雇用契約内容などについて30分−60分程度、お話しさせていただきます。
  • 以下のフォームより、オンライン面談の希望とご記載いただきご送信ください。
オンライン面談を申し込む
申し込みフォームに移動します


wagi

みなさまと一緒に働ける日を楽しみにしています!

TOP に戻る
Thank you for reading !!