皆さんこんにちは。
連ケア科1年目医師のYuukiです。
前回に引き続き、多施設抄読会ネタを紹介しようと思います。
今回のテーマはズバリ!ACPです!!!
多施設抄読会って?
※第4回の記事でも紹介しましたが、多施設抄読会についてもう一度ご紹介致します。
施設抄読会は、全国から約10の医療機関が参加しております。
週1回開催しており、時間は約1時間です。
それぞれに担当雑誌があり、最新の論文雑誌から「緩和ケア」や「がん治療」などに関することをピックアップし、紹介していきます。
気になる論文は?
今回の論文はこちらです。
What’s Wrong With Advance Care Planning?
Morrison RS, Meier DE, Arnold RM. What’s Wrong With Advance Care Planning? JAMA. 2021 Oct 26;326(16):1575-1576. doi: 10.1001/jama.2021.16430.
PMID: 34623373.
「ACPによって終末期ケアの質が向上する…わけではない」という内容でした。
当時勉強不足だった自分は、ACPに関して否定的な内容の論文があるとは、思いもしませんでした。
衝撃を受けました。
実際の内容は?
なぜACPが上手くいかないのか
ではなぜ、ACPがこういった科学的根拠を得ていないのでしょう。
この論文では「理想と現実にはGapがあるから」と説明しています。
ACPを成功させるには、以下の8つのステップにかかっている、と述べています。
ACPを成功させる8つのステップ
- 価値観や目標を明確にする
- 医療者が価値観や目標を引き出す
- 文書化する
- 指示書や代理人を利用
- 代理人が治療法を決定
- 医療者は指示書を読み、代理人と話し合う
- 直近の意思を尊重する
- 希望とケアが一致するように医療を提供
しかし…現実にはこんなにきれいにACPをすすめることは難しいと述べています。
- 終末期の意思決定は複雑で不透明で、誰にとっても負担になる
- 代理人も実際に直面すると上手く判断できない
- 指示書がどこにあるか分からない、あってもきちんと書かれていない
- 実際の治療選択は、その時の経済状況や社会資源、文化やローカルルールにも左右される
確かに、いざその場面に直面すると、スムーズにはいかないですよね…。
それでは、どうすればいいの?
抄読会の中で、医療における行動経済学についても話題に上がりました。
正確な医学情報を与えても、人はバイアスの影響で合理的な意思決定が出来ないことがある。
その際にどのようなアプローチを行うと、人は望ましい行動を取れるのか
を研究するものです。
アプローチの方法として「ナッジ」(軽く肘でつく、背中をそっと押す)があります。
ちょっとしたきっかけを与え、望ましい行動変容を引き起こす
という内容です(アイキャッチ画像も背中を押される象を選んでおります)。
有名な例は、男性便所の小便器に小さなハエのシールを貼ることです。
シール目掛けて用を足すようになるので、床に小便が飛び散る量が減り、掃除の手間が減るということです。
ACPにはどう活かす?
ACPに有効といわれている「ナッジ」にはいくつかあるのですが、
ここでは、デフォルト設定をご紹介致します。
- Serious illness conversation guide
https://chugai-pharm.jp/contents/bj/003/03/
重篤な疾患を持つ患者さんとの対話の際に、予めシナリオを設定しておくことで、スムーズに話し合えることを目指します。
- 自己記入問診票
https://chugai-pharm.jp/contents/bj/003/04/03/#ac-id=bj003_04_03_11
病気のことだけでなく、身の回りの生活や人生の価値観などを聞きます。
待ち時間などに記入しておいてもらうことで、実際の診療時に医療者と話すきっかけとなります。
入院時や外来診療時に、毎回全員に配るようにしておくことで、特別なこととは意識せずに記入できます。
「普段の何気ない作業の中に組み込む」というのがポイントですね!
まとめ
今回はACPが終末期のQOLを向上させる明確なエビデンスが無いという論文の紹介でした。
医療行動経済学の観点で、ACPが発展していくことを期待したいですね!
自分もまだまだ発展途上です!
指導医からのコメント
論文の補足
Yuuki先生、よくまとめてくださいました!
ACPって概念的抽象的で、いまいち理解しづらいんですよね。
私もまだわかった気になってるだけです。
論文の内容について、ちょっと補足します。
この論文は2021年にJAMAに掲載されました。著者は米国のMount Sinai病院 老年・緩和ケア医であるR. Sean Morrison先生です。過去に200本以上論文を書いてる業界のレジェンドですね。
この論文では【「ACPが終末期患者のゴールと一致した(goal-concordant)ケアにつながる」という仮定に対し、科学的に証明されていない】と述べています。
根拠として、2018年1や2020年2に行われたレビューなどを提示し、ACPが患者のQOLやゴールと一致したケアに関連するエビデンスが無いことを示しています。
※1 J Pain Symptom Manage. 2018;56(3):436-459.e25.
※2 J Am Geriatr Soc. 2021;69(1):234-244.
これまでのACPのレビューでは「結果が出てないだけで(あるいはデザインが悪くて)、ACPは終末期ケアに必要ではない、というわけではない」というフォローがなされています。
しかしながら、モリソン先生はそういったフォローに対し、「そうやってACPが良い終末期医療に不可欠であるという信念を奨励することは、良くない影響も与えうる」と述べてます。具体的にはCOVID-19流行下での意思決定が事前指示書に依存し必要な話し合いが十分に行われていなかったことを述べています。
それではどうすればいいのか?という問いに対して、モリソン先生は「信頼できる代理意思決定者(医療代理人)を事前に任命することを奨励し、代理意思決定者と臨床医の間で現在行われているShared Decision Makingの改善に、研究と臨床の努力を集中させること」を推奨しています。
最後に「臨床医を訓練し、実際に決断を下さなければならないときに、患者と家族が質の高い話し合いに参加できるように準備することに焦点を当てた新しい研究が必要や!」と述べています。
行動経済学について
論文では行動経済学については触れられていないのですが、ACPと行動経済学は相性が良い可能性があります。
実際に、2019年のJPSMに掲載されたLetter(J Pain Symptom Manage. 2019;58(4):e7-e9.)の内容がよくまとまっていてわかりやすいです。
(advance care planning[MeSH Terms]) AND (behavioral economics[MeSH Terms]) で検索すると2件しかヒットしなかったので、もう少し真面目にチェックすると他の論文が見つかるかもしれませんが、あまり多くは無いようですね。
ここはモリソン先生も懸念しているところですが「ACPを通じた事前指示書の作成とそれに従うことへの誘導」にならないような設計が必要です。
医療行動経済学を研究されている大阪大学の平井啓先生から、ナッジはそれが強要や誘導にならないよう、緻密に計算されているというお話を伺ったことがあります。
ACPは医療者主導的、そしてDNARやCMOに導きがちになりやすい可能性をはらんでいます。
またエンドオブライフの話し合いは心理的侵襲も大きいものです。
患者・家族が能動的かつ主体的に、エンドオブライフの話し合いを促進させるようなナッジを開発したり、社会規範(Social norms)となるような普及・啓発活動に取り組む必要を感じています。
ACPについて、まだまだ課題は多いですが一緒に頑張っていきましょう!
緩和ケアだけでなく、行動経済学についても一緒に学んでいきましょう!
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