後期研修医の鈴木です。
当科で4週間の研修を終えられた当院初期研修医の兵頭先生が、これまでの当科での研修を振り返って最終発表をしてくださいました。今回は、緩和医療における放射線治療の役割と実践について学びを共有してくださいました。
※症例の詳細については、個人が特定できないよう、適宜修正を加えています。
放射線治療の定義と目的
放射線治療は、その目的に応じて大きく三つのカテゴリーに分類されます。一つ目は、癌の治癒や生存期間の延長を目指す「根治的放射線療法」です。二つ目は、癌に伴う苦痛を緩和し、生活の質の向上を図る「緩和的放射線療法」であり、これは緩和的照射とも呼ばれます。そして三つ目が、症状が急激に悪化しており迅速な対応が必要な場合に、診断の24時間から72時間以内に開始される「緊急放射線療法」です。
このうち、緩和的放射線治療の最大の特徴は、現在出現している痛みなどの身体症状を改善することだけでなく、将来的に起こり得る症状を予防することも視野に入れて行う点にあります。具体的な適応としては、骨転移や脳転移、上大静脈症候群、腫瘍による気道狭窄、そして腫瘍からの出血などが挙げられます。これらは転移巣だけでなく、原発巣に対しても有効な治療手段となり得ます。
骨転移に対する緩和的放射線療法とメカニズム
兵頭先生が経験した一人目の患者さんは、腰痛を主訴に来院された前立腺癌の男性でした。経過の中で第2腰椎への転移が判明し、同部に対して5日間で計20Gy(グレイ:放射線量の単位)の照射を行いました。骨転移による痛みの背景には、癌細胞が骨に転移することで破骨細胞(骨を壊す働きを持つ細胞)が活性化し、溶骨性変化や神経繊維への直接的な刺激、さらには周囲の筋肉の痙攣が引き起こされることで痛みが生じるという機序があります。放射線がこの破骨細胞の働きを直接抑制することで、骨転移による疼痛の改善に寄与します。
統計によれば、骨転移に対する緩和的放射線療法によって約60%の患者さんで痛みが改善し、約50%で完全に消失するとされています。治療効果の発現には2~3週間を要しますが、一度効果が現れると半年から9ヶ月程度持続します。また、照射プランには1回で終了する「単回照射」と、複数回に分けて照射する「分割照射」があります。研究データでは、鎮痛効果や毒性に大きな差はないものの、単回照射は再治療が必要になる率が高く、再治療までの期間も短い傾向にあります。そのため、患者の予後や骨折予防の必要性(分割照射の方が骨形成作用を期待できるため有利とされる)を考慮し、最適なプランを検討することが重要です。
止血目的の緩和的放射線療法とその他の適応
二人目の患者さんは、進行胃癌からの持続的な出血によって重度の貧血を呈した高齢女性です。2週間で合計8単位の輸血を必要としていましたが、併存疾患や全身状態から手術や化学療法の適応はなく、緩和的放射線療法の適応と判断して10日間で10Gyの放射線照射を行いました。
癌からの出血は胃のほか、肺、膀胱、乳房、子宮頸部、大腸などで多く見られます。放射線による止血成功率は50%から80%と高く、効果は2ヶ月から3ヶ月、長ければ11ヶ月程度持続します。約4分の1の症例で再出血が見られますが、その際にも追加の緩和照射を検討することが可能です。また、脳転移も緩和照射の重要な適応となります。全脳照射や定位放射線治療(ピンポイントの放射線照射)を状況に応じて使い分けることで、症状の維持を図ります。単独治療では新規病変の再発リスクがあるため、全脳照射を併用する戦略が取られることもあります。
放射線治療の限界と有害事象への対応
放射線治療は強力な治療選択肢ですが、無制限に行えるわけではありません。生涯に同一部位で受けることができる放射線量には上限があり、累積で50~60Gy程度が許容範囲とされています。また、治療に際してはミリ単位の位置合わせが必要なため、指示に従って静止することが困難な患者さんへの治療実施には慎重な判断を要します。副作用として最も頻度が高いのは疲労感ですが、特筆すべきものに「フレア現象」があります。これは照射開始後1週間以内に、一時的に標的部位の痛みが増強する現象で、約35%の頻度で見られます。数日から数週間で自然に軽快しますが、症状が強い場合にはデキサメタゾン(ステロイド)の内服が有効です。
研修を振り返ってのまとめ
患者さん一人一人の苦痛に向き合い最善のケアを検討するうえで、地域のリソースにも依りますが、放射線治療は治療選択肢の幅を大きく広げてくれます。主治医が放射線治療の適応を正しく理解し、適切なタイミングで提案することができるよう、常にアンテナを広げておくことが重要です。
兵頭先生、4週間の研修お疲れ様でした。
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