後期研修医の鈴木です。
市立奈良病院から当科へ3か月間のローテに来られていた辻本先生が、これまでの当科での研修を振り返って最終発表をしてくださいました。今回は、悪心・嘔吐に対する症状緩和について、学びを共有してくださいました。
悪心・嘔吐に対する薬物療法
・D2受容体拮抗薬(消化管蠕動促進薬)
:食事によって悪心や嘔吐が誘発される場合に有効。
消化管完全閉塞や、強い蠕動痛がある患者には禁忌。
メトクロプラミド:消化管蠕動促進+中枢性制吐作用がある。錐体外路症状に注意。
ドンペリドン:主に消化管に作用し、錐体外路症状は比較的起こりづらい。
・H1受容体拮抗薬(嘔吐中枢や前庭器に受容体が分布)
:体動で増悪する悪心に特に有効。
錐体外路症状リスクはないが、眠気やせん妄を誘発することがある。
トラベルミン配合錠、アタラックスPなど。
・中枢性制吐薬(抗精神病薬、複数の受容体に拮抗作用を持つ)
:誘因なく生じる悪心や持続的な悪心に特に有効。
プロクロルペラジン(ノバミン®):効果発現が早く、眠気が生じにくい。
ハロペリドール:内服できなくても使用可。眠気は生じうる。
オランザピン:多数の受容体拮抗作用を持つ。他の制吐薬が効きにくい場合に少量で使用する。効果は長時間持続するが、糖尿病に禁忌。
※D2受容体拮抗作用を持つ薬同士の併用は避ける。
・抗不安薬(嘔吐中枢のAchm受容体に作用)
:不安や緊張を伴う悪心、予期性嘔吐などに有効。
アルプラゾラム、ロラゼパムなど。
悪心・嘔吐の原因評価と治療
悪心・嘔吐のよくある原因としては、以下のようなものが挙げられます。
- 便秘
- 電解質異常(特に低Na血症、高Ca血症に注意)
- 血糖異常(低血糖や極端な高血糖)
- 頭蓋内圧亢進(脳腫瘍や髄膜炎など)
- 消化管閉塞(手術や十二指腸ステントなどの適応を相談)
- 薬剤性(抗がん剤やオピオイド、三環系抗うつ薬、SSRIなど)
悪心・嘔吐の原因となった病態の特徴に応じて、対症療法としてD2受容体拮抗薬やH1受容体拮抗薬、抗不安薬など、あるいはプロクロルペラジンを使用しつつ、原疾患の治療を行います。症状の改善に乏しければ、他の機序の制吐薬やオランザピンへの変更を検討します。作用機序の異なる薬剤同士であれば、制吐薬の併用も可能です。
また、非薬物療法としては以下のような対応が挙げられます。
- 環境調整:突然の嘔吐に備え、手元に袋やティッシュなどを常備する。花や芳香剤など匂いの強いものは持ち込まない。
- 食事の工夫:温かいものや匂いの強いものは悪心を誘発するので避ける。
- 体位調整:窒息予防のため、起坐位や半側臥位~側臥位を検討する。
ステロイドの適応について
悪性腫瘍による消化管狭窄や脳転移による嘔気・嘔吐の場合、ステロイドが浮腫や圧迫を軽減して症状が緩和される可能性があります。
→デキサメタゾン 4~8mg/day程度を開始し、効果があれば効果の維持できる最小量まで漸減、あるいはいったん中止する。症状が悪化する場合は投与を再開する。
※ステロイド投与が1ヶ月以上に渡る場合は、合併症リスクに注意が必要です。
研修を振り返ってのまとめ
辻本先生は、研修中の周囲の方との関わりを通じて、「患者さんとご家族が、残された時間をどう過ごすかを支えるのが緩和ケア」という実感を持たれたそうです。今回取り上げた嘔気・嘔吐に限らず、患者さんとご家族が直面しているつらさに向き合う術を学ぶことで、より多くの方に自分らしく過ごすお手伝いが出来ればと思います。
辻本先生、3か月間の研修、お疲れ様でした。
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