後期研修医の鈴木です。
 当院初期研修医でへ6週間の研修に来られていた岡崎先生が、これまでの当科での研修を振り返って最終発表をしてくださいました。今回は、がん治療において避けては通れない「治療の地平」と、その先に続くケアの在り方について、学びを共有してくださいました。

※症例の詳細については、個人が特定できないよう、適宜修正を加えています。

医療者に見捨てられたという感覚が生まれるとき

 がん治療の経過の中で、抗がん剤などの積極的治療の適応がなくなり、BSC(Best Supportive Care:がんそのものへの治療ではなく、症状緩和やQOLの維持に主眼を置き、最善の支持療法を行うこと)の方針へ移行する場面は、ほぼすべての患者さんで訪れます。しかし、医療者が発する「これ以上の治療は難しい」という言葉は、患者さんにとってしばしば「終わりの宣告」や「医療からの見捨てられ」として受け止められてしまいます。

 岡崎先生は今回のローテーション中に、このような葛藤を抱える2人の患者さんと出会いました。一人は術後再発してしまった末期胃癌の方で、合併症のため化学療法が続けられなくなった際に「匙を投げられた」と怒りを露わにされました。もう一人は20年以上闘病を続けてこられた血液腫瘍の方で、病状が進行したために輸血が難しいと伝えられた際に「治療ができないなら入院する意味がない」と病院への不満を表出されました。発表では、患者さんがなぜそのように感じてしまうのか、そして医療者はどのように関わるべきなのかを、心理学的モデルを提示しながら振り返られました。

告知を受ける患者さんの心理プロセス

 死に至る過程における心理的変化として、エリザベス・キュブラー・ロスが提唱した「死の受容の5段階モデル」はよく知られています。治療適応がないと告げられた患者は、まず「検査の間違いではないか」といった否認や、「なぜ医師は諦めるのか」という怒り、さらには取引の段階を経て、診療科との関係が絶たれる不安から抑うつへと至ります。この過程の中で、医療者は「痛みを和らげるための緩和照射や神経ブロックがある」といった前向きかつ具体的な選択肢を提示し、「これからも継続して関わり続ける」という姿勢を示すことが重要です。これにより、患者さんは残された時間をどう過ごすかという受容の段階へ、より円滑に進むことができると考えられます。

 最も大事なことは、オープンかつ正直に、適切なタイミングで情報を共有することです。特に治療の初期段階から将来の予測について少しずつ対話を重ねることで、治療終了という衝撃的なイベントが突然訪れる苦痛を和らげることができます。次に、治療目標を「がんの根絶」から「苦痛の緩和やQOLの維持」へと再定義し、希望と現実のバランスを取ることが重要です。残された時間に限りがあるという現実を伝えつつ、その中で何ができるかという希望に目を向けてもらうのです。また、話し合いを行う前提として、患者さんや家族の発する非言語的なシグナルを汲み取り、大事な話をする準備が整っていない場合には無理に話を進めない柔軟性も重要です。


研修を振り返ってのまとめ

 患者さんが「見捨てられた」と感じてしまう背景には、治療の終了を希望の喪失と同一視してしまう心理がありました。緩和ケア医としての役割は、治療をやめることが終わりではなく、治療の形を変えて医療とのつながりを継続させることにあると言えるかもしれません。

 岡崎先生、6週間の研修、お疲れ様でした。

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