後期研修医の鈴木です。
当院で初期研修をされていた山邉先生が4週間のローテを終えて最終発表してくださいました。
今回は、当科ローテーション中に病棟で複数回せん妄への対応を経験されたことから、入院中のせん妄への対応についてまとめてくださいました。
高齢者の骨折入院で経験した「せん妄」
高齢女性が、自宅で転倒を契機に骨折し、当院へ救急搬送されました。ADLはもともと比較的自立していたため、一旦待機的に保存的加療を行い、後日手術加療の方針として、当科で入院対応を行うこととなりました。内服薬にはブロチゾラム(ベンゾジアゼピン系睡眠薬、以下BZ系)も含まれていましたが、入院時にいったん中止となっています。
入院後しばらくは穏やかに過ごされていましたが、第2病日夜から不眠が出現、デエビゴ が開始されました。翌第3病日からは幻視や見当識障害が出現し、時に「うわー、怖い!!」などと叫ばれることもあったようです。せん妄症状に対してクエチアピンが開始され、その後追加の薬剤調整が行われて徐々に症状は落ち着いていきました。
この方が入院後にせん妄を発症した要因として、山邉先生は以下の3点を挙げています。
- 入院直後に長期連用中のブロチゾラムが中止された
- 高齢者という患者要因、入院という環境変化
- 末梢点滴、膀胱留置カテーテルによる身体的侵襲
せん妄についての知識整理
定義:身体疾患や薬剤などの原因がある、急性発症で動揺性の経過を辿る精神や行動の障害
中核症状は注意障害(97%)で、睡眠覚醒障害(97%)や見当識障害(76%)などを合併する。発症頻度は一般的な内科入院で18~35%、術後や集中治療領域、緩和ケア領域ではより高頻度とされる。せん妄の評価尺度としては、Delirium Screening Tool(DST)やSQID(Single Question in Delirium)などがある。
せん妄対応の原則
- 原因となりうる身体疾患があれば、まずは身体疾患の治療を最優先する
- 薬剤性が疑われる場合は、被疑薬の減量・中止を行う
- 不穏が続き、どうしても対症療法が必要な場合は、睡眠薬→抗精神病薬の順で導入を検討する
当院では院内のリエゾンチームが作成した内服薬の使用アルゴリズムがあるため、発表ではそれらを図示しながら薬物療法についてもまとめてくださいました(実際の図表は著作権上割愛致します)。薬物療法のポイントとしては、以下の3点を挙げてくださいました。
- 眠前には既にせん妄が悪化しているケースも多く、睡眠薬を含めて夕食後投与を検討する
- 抗精神病薬は、投与開始後に3~4日間症状が改善すれば漸減/中止を試みる
- せん妄発症時は意識や注意力が低下しているため、静かな環境で、短い言葉で話しかける
ベンゾジアゼピン系睡眠薬と離脱症状
今回のケースでは、長期連用していたブロチゾラム(BZ系)が入院時に中止されたことが、せん妄発症に影響を与えた可能性があります。せん妄を生じた患者で持参薬にBZ系がある場合の基本方針は以下です。
- BZ系を1剤でも使用していれば、オレキシン受容体拮抗薬(ベルソムラ、デエビゴ、クービビック)を開始し、BZ系は漸減・中止
- BZ系を2剤以上併用している場合は、半減期の短い方から漸減し、減量が難しくなった時点で半減期の長い方を減量し始める
ただし、BZ系の減量には再燃・再発や反跳現象(中止前よりも強い症状が発生する)、離脱症状のリスクもあるため、実際にせん妄が起きていなければ無理にBZ系を減量する必要はありません。処方理由が不眠症単独で、不眠の原因疾患の管理が良好、かつ65歳以上であればすべての患者、18~64歳では4週間以上内服している患者が減薬の対象となります。減薬の方法は各国のガイドラインによってまちまちですが、日本の睡眠薬の適正使用・休薬ガイドラインでは、1~2週ごとに服用量の25%ずつ、4~8週間かけて減薬・中止することが提案されています。
学びの振り返り
最後に、この症例を通じた学びについて、山邉先生は以下のようにまとめてくださいました。
- 入院時にせん妄のリスクを評価し、高リスクであればあらかじめ環境調整などの対応を行う
- せん妄を生じた場合は、原因となる身体疾患の有無を確認する
- BZ系は慎重に減量し、実際にせん妄が起きていなければ無理に減量を行わない
山邉先生、4週間の研修お疲れ様でした!
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